ピクシーワークス

「──長かった。十五年ぶりに空へ帰れます」

ピクシー・ワークス (電撃文庫)

ピクシー・ワークス (電撃文庫)

読後の爽快感が素敵な、お話でした。
女子高生が、遺棄された軍用機をリストアして、政府にテロまがいなことをする……。殺伐なイメージを途中で持ってしまったのですが、杞憂でした。

現実の日本とちょっと違うパラレルワールドの近未来(東京が帝都)。マッドサイエンティストの卵達の女子高生に降って湧いた、軍用機のリストア作業。
時の政府の鼻をあかせたいと思う、戦争で家族を失った老人をクライアントとしてやってしまう。

あり得ねぇ、と一瞬思うのですが芹香をはじめとするヒロインキャラ達の強い個性に引っ張られて物語りに引き込まれて読み終えてしまいました。
それと、メインヒロインとも言うべきは、リストアされる期待のニューロコンピュータのヴァルティがものすごく魅力的。
自我が芽生えたヴァルティの空で舞う事の渇望。そして、芹香に、どうしたいと選択を突きつけられたときの葛藤。

SFと付喪神を普通に受容してしまう日本的な感情が上手く合わさった作品かな、という感想です。
芹香が思い出を抱いたまま自爆するか、生きることを望むかをヴァルティに選択させる所はすごい。そして、生きたいと選択して彼女を受け入れる姿はほうーと。感嘆しました。ああ、こういうのが自分は大好きなのだと。

ヘンに政治の色もあまり付かず、天才女子高生達の悪巧みが人工知性のヴァルティとの邂逅が綺麗に表現された、良質な空モノです。

9月に新作で本が出ると言うことで、そちらも期待大です。