とある飛空士の夜想曲 下
──ユキ。
──お前がレヴァームの歌を歌えるようにしてやる。
- 作者: 犬村小六,森沢晴行
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2011/09/17
- メディア: 文庫
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あー、もう。切なくそして燃えるシーンを描くのが相変わらず上手い。戦闘機による戦い。そして、惚れあった千々石とユキのすれ違いの上での結びつき。
涙ぐむのを押さえるのはムリや、というくらい感情を揺さぶる話でした。
終盤に好敵手、海猫との対峙する舞台設定がまた見事というか。近代戦の容赦ない戦いの中で生まれた奇跡の一騎打ち。敵役の艦隊司令が言うように、ロマンの塊でした。
純粋に海猫(シャル)に勝ちたい。その一心で動いている千々石にブレがないから、彼に感情移入してのめり込んでしまった気がします。
千々石がにぶちんの木石じゃなくて、ただの男として中盤以降にきちんと描かれていたのはよかった。ユキとの和解は、本当にして欲しかったので。
不器用な、本当に不器用な少年と少女は、大人になっても変わらない。ただ、一緒にいた仲間の機転でヨリが戻っていくところは、予定調和ですが良いのです。
お互いの気持ちを確かめあったあとの出撃からの流れは一気に引き込まれました。ずっと望んでいた海猫との一騎打ち。そして、勝利したあとの行動。
一機当千。個人的な勝利が、ああいう形で海戦そのものの勝利に変わるとは予想外で、やられたかな。
それも千々石にチャンスを与え、そして……心底愛しているユキが自由に歌える世界を作りたい! そう言われたら「ああ……!」と思わざるを得ない。その為に命を賭ける千々石の姿は来ますね。
その千々石のラストのシーンが胸を突く。幼い頃からの想い人であるユキの姿が浮かぶところがもうね。
読み手の心をつかむ描写が上手いなぁ、と思うシーンに感じます。
正直、戦局の流れは日米の太平洋戦争の流れでここまでヤルか! という趣味丸出しな気がするのを(大好きですよ、自分は)ラノベとして昇華した犬村先生とそれを出版させたガガガ編集部の太っ腹さにも惚れてしまう。
ああ、こりゃラバウルの話とか史実の栗田艦隊の謎の反転を、こう使ったりとか硫黄島とペリリュー島のエピソードくっつけたとか、読んでいてにやりとしたり。よくここまで書いたモノだ。
それこそ大空のサムライこと、坂井三郎の敵基地でのいたずらのエピソードを本編で上手く描いたなぁと感嘆しました。ストーリーにかっちりとはまった上での、あれは上手い。
(追記:9/20)
飛空士シリーズで主人公が死んだのは千々石が初めてで、ラノベとしてはかなり思い切った事のように思います。ただ、ユキに命の灯が続いている。
もしかすると、これは現実に起きた悲劇への祈りと未来に対する希望が込められているのかもしれません。