不堕落なルイシュ

「神倉君はすっごく心の温かい人だね!」
そう言ってくれた初恋の彼女が、左足が一生不自由になり法律によって二ヶ月後に『処理』される事が確定した。

不堕落なルイシュ (MF文庫J)

不堕落なルイシュ (MF文庫J)

初恋の少女を助けるため、主人公の神倉は彼女を連れて『処理』すなわち、処刑されないために脱出する……。

読み始めてから物語について行くのに頭がフル回転している状態でした。奇異な世界観、そして主人公を取り巻く肉親達の変人っぷり。全てのモノに想像力と好奇心を掻き立てられたと言っても過言ではないくらい、はまりました。

人類に寿命が無くなったユートピア、と思いきや60歳になったら自動的に生存権を停止、すなわち死が訪れる世界。また、社会の生産に寄与しない弱者はその場で処刑されるという。ただし、社会的に貢献したモノは永久に生きる権利が与えられる。
だから、人は自分本位になり相手を気遣うということが余りないぎすぎすした社会になっている。そして、人のいやがる事を率先して行った結果、不虞となり取り除かれてしまう事になるヒロイン……。
ここまでディストピアな世界を描いた物語は久しぶりだったのでそれだけでかなり入れ込んでしまったと思います。(SF大好き! な人なので<自分)

主人公はともかく、ヘタレ。でも、最後にきちんと見せるところはみせるのでやきもきしながらも読後は悪くないと思います。

ラノベ的にも上手くやっていると思ったのが、主人公を含めたキャラクターの設定と表現だと思います。母親、姉、妹。どれもが天才で唯我独尊的な立ち位置で、しかもぶっ壊れているのですが、どれもが目を惹く個性を持っている。小学生みたいなロリ母親に他者は許さないが、主人公の兄を盲愛する妹とゴスな姉。
これが上手く物語を薦めていくキャラなんだから、これだけで作者は凄い。というか、変人ですよね(誉め言葉)

キャラ的には、タイトルになっている妹の涙珠が一番惹かれますね。天才でともかく人にはきつく当たるくせに、兄への愛とかともかく一貫している姿勢が良いですね。要所要所でも活躍していて格好良いし。超ドSな母親も、物語後半ではなるほどなぁ、と思う部分を見せて憎めない所があります。

今回この作品で凄いと感じたのは、テーマにブレが無かったこと。設定の前提にある小難しい政治やら社会制度やらの話にならず、「家族喧嘩」そして「家族愛」で終始落としている所が痺れました。普通なら、設定に縛られて小難しい事を脇道に逸れてどーでも良いことを微細に描いた結果つまらなくなりかねない事もよくあります。本作はそれが無くて読み始めてからの期待が裏切られなかった。
ラノベの物語として読み進めてかつ、読み終えてきちんとカタルシスを得ることが出来たのはとても嬉しい作品でした。

ただ、人にお勧めできるかというと難しい。ともかく、吐き気がするような設定でもあるのでそれだけで抵抗がある人もいると思います。なので、それでもいいよという人は是非。
個人的な感覚では、藤子・F・不二雄短編集でシリアスで救いが余りない話でも、作品として綺麗に出来ているという事で評価出来る人には勧めたいです。

続くという事なので、次巻も期待しています。