ロミオの災難

「それは寂しいなと思うんだ。偽物の気持ちだとしても、私は誰かをこんなふうに好きになったことはなかったから」
ロミオとジュリエット』の台本に残った思念に弄られて、心に湧き起こった恋心をもてあましつつ、初めて手に入れることが出来た事に愛着を持つヒロインは──。

ロミオの災難 (電撃文庫)

ロミオの災難 (電撃文庫)

これは良い恋愛小説だったと思います。正確には、恋愛をする前の人を好きになるときの過程を描いた青春小説。
演劇部に所属している主人公達が学園祭で劇を演じるための台本に、過去の部員の色恋沙汰の思念が残っていたため部活がとんでもないことに……。
ロミオ役になった主人公が意志を操られた部員全て(一人男)から恋愛感情を持たれてしまった事から巻き起こる恋の騒動、大変楽しめました。

人が人を好きになるなんて状況次第で分からない。本作では、高校生を主人公に人を好きになることを甘酸っぱいタッチで描いた良作だと思います。
ちょっと手法を変えた三角関係モノですが、設定はあくまでも設定で、操られてなるかと苦悩しながらそれぞれ抱いている恋心を放さないで正面から向き合う姿が読んでいて惹かれます。
自然体というか、あー、そうだよなぁって感じの描写が読んでいてすとんとはまる。そんな感じでした。

メインヒロインの雛田がずるいよー、ってくらい描写がはまるのですが主人公をずっと好きだった藍子の気持ちもとても良く理解できるので読んでいて、歯がゆいくらいのもどかしさが胸に来ます。
主人公も、一目惚れで片想いの雛田からあけすけな好意をよせられた時も、操られているからときちんと一線を引く所は偉いと思う反面、欲望に押されてという部分があまりなくてちょっと淡泊だったかも。
とはいえ、それを始めたら収拾付けるのが大変ですから、これくらいでよかったかな。

個人的に気に入ったのは、やっぱりメインの雛田。
恋する気持ちがずっとわからなくて、美少女なのに色恋沙汰にうとく、恋愛失格とか思い詰めていた雛田がとにかく可愛かった。
突然湧き起こってきた恋心に戸惑いつつも、その気持ちを嬉しく思って可愛い女の子らしいくしゃみを研究したりするシーンが不覚にもツボでした。
主人公をずっと好きだった藍子も良かったと思いますが、インパクトとしてもっていかれたかな。ヒロイン同士のどろどろした部分があまり無かったせいか藍子の印象が、良い娘で終わってしまうのは読み手の差別かもしれません。

あと、脇役の村上や西園寺もそれぞれ自分を持っている良いキャラだったので、彼、彼女らの恋物語もちょっと気になる描き方で良かったと思います。

残留思念に囚われて、学園祭で公開する劇もいろいろトラブルが有りつつもきちんと収束し、ラストはずるいよなぁ、というくらい綺麗に纏まっていて心地よい読後が残ったと思います。
雛田に告白しようという所で終わるところは、想像する楽しみがあって良かったと。
続きがでる作りじゃないだけに、目に止まりにくいかもしれないけれど物語として良く出来ていたかな。