超人間・岩村

「語れ! 語るんだ! キミの純粋なその志を!」
「そ、そんな……」
「……それで、あんたはどうした成り行きで、このバカの血に火をつけた?」

超人間・岩村 (スーパーダッシュ文庫)

超人間・岩村 (スーパーダッシュ文庫)

アメコミ同好会に属する岩村陽春。「無理」、「不可能」という言葉を聞くと、即座に行動を起こして可能にしてしまう男。人をして、彼を『超人間・岩村』と呼ぶ。

あおりだけ書くと、ギャグっぽい気もしますがさにあらず。主人公とその友人達とのとんでもなく熱い話で、読み始めると先が気になってとまらない。その理由は、シチュエーションとキャラクターの作り方がとても上手だからだと感じます。熱いキャラとちょっとズラした舞台設定が意外性を持たせて、読み手を引き込んでいきます。

シチュエーションは意外性と王道をバランス良く出してくる所が憎い。
プロローグがヒーローモノのオープニングのような出だしで始まるのでバトル系か? と、思いきや廃部寸前の柔道部の助っ人。なーんだ、と思ったら相手はヤンキー高で卑怯な手を使ったり、味方のあり得ない自爆などでピンチになるが……。
ズラして、戻して勝負モノの王道へと持って行くのが1話なら、2話はなんと、演劇部を救え! どう演技しても暑苦しい、熱血なロミオを演じてしまう岩村。さてさて? みたいな。

キャラクターがまた魅力的で痺れる。友人になりたいなぁ、って共感できるキャラクターってそれだけで成功だと思うのです。
また、主人公だけでなく岩村を取り巻く友人の多村にマル。そしてヒロイン達も皆個性的で、物語に欠かせない存在感をもって表現されていたと感じます。岩村と多村、マルの強い信頼関係はまさに「ダチ」というか羨ましいくらい。
キリがないので主人公の岩村をピックアップしますが、行動、台詞どれをとっても前向きで、熱い。その熱い台詞を放つ彼が、実は途方もない絶望を一度背負った上で今を生きているとエピローグで知ると、またぐっと来る。
語る台詞が一々、強いヤツなら言えるよな的なモノを感じるのだけど、そのエピソードがあるお陰で、超人間は人間だと分かる。強いのは、強くなろうとして今があると考えれば当然だと腑に落ちます。

1巻で完結していますので、興味があれば手に取って損は無いんじゃないかな。
それにしても、続編も作れる流れではあったのですが出ていないんですよね。残念といえば、残念です。