小さな魔女と空飛ぶ狐

「ま、わたしに任せておきなさい。戦争なんてすぐに終わらせてあげるわ!」

小さな魔女と空飛ぶ狐 (電撃文庫)

小さな魔女と空飛ぶ狐 (電撃文庫)

ロリコン万歳のコメディで、戦争の悲惨さと技術を提供する科学者の悲哀を描いた怪作。欲張りでてんこ盛りと思う内容をここまで上手く纏めたのは素晴らしいと思います。
天才タカビーなロリ娘にあごで使われるという話だけでもありでしょう。
途中の結果だけみると悲惨な話なのに、それでも読後に15歳の天才少女のアンナリーサが可愛い! と言い切れる描写のさじ加減は絶妙です。

飛び級で、大学すら卒業しているアンナリーサが容易く請け負った、科学を用いた戦争の真実は……より効率化された殺戮。
己の科学技術に対する才能を信じ、冒頭に挙げた言葉を述べたアンナリーサが、自らテロに遭った後の苦悩はとても良く描けていました。

主人公もただアンナリーサに振り回されるだけではなく、極限状態の戦場を見た大人。アンナリーサが自ら作る兵器の罪深さに恐れおののいている時に、主人公が自己の体験を元に語る言葉は考えさせられます。正解はない。その中で、より良いものを見つけようとする事が作中で述べられている「高潔な精神」なのかもしれません。

そういう重い話をヌキにしても、本作には惹かれる要素が多い。
アンナリーサの敵役である、マッドサイエンティストのルイのおっさん。キチ○イなだけではなく、そうなってしまった理由はあり得ると思わせる存在感はすごい。

彼らを取り巻く、サブキャラクター(エマやメリエル等々)も面白く描かれていてよかった。特に主人公が兄の仇であるエマの描写は硬軟含めてアリだったと思います。人間的だとも言えるかな。

後半で凄惨な場面を描かれつつ、ハッピーエンドに持って行けているのはココロ休まります。たしかに、偽善でしょうがそれでもなお生きるのが人間ですから。
今回、アンナリーサにフラグを立て、元々フラグが立っているリーゼ姉様との確執がどうなるのか。そういう意味でも続きは読んでみたいです。……綺麗に終わっているからなぁ──。

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お・ま・け(歴史がどーでも良い人は流して)


ピクシーワークスも読まれた人は、分かると思いますが世界観が本作と共有されていて、ピクシーから見ると過去のお話です。そして微妙に歴史が改変されていて仮想歴史ものが好きな人間にはたまらない、作品に思います。
ドイツを模した皇国とプロイセンが並列しているということは、プロイセンビスマルクが登場せず、ホーエンツォレルン家じゃないドイツ帝国なのかな、と思わせる描写は本編とは違う意味で楽しめると思います。女帝があるから、ハプスブルク家からのオーストリー側からの逆大ドイツ主義だったりとか妄想が膨らみます。