ミスマルカ興国物語 VIII

そしてルナスはのど元の刃も忘れ、陶酔した。
私の見たかった、マヒロ──

ミスマルカ興国物語 VIII (角川スニーカー文庫)

ミスマルカ興国物語 VIII (角川スニーカー文庫)

父王を討たれ、帝国に占領されたミスマルカ王国。マヒロはルナス等帝国に完全恭順を示し、民の安全を確保した。そして、魂が抜けたように無感動な人形のようなものと成り果ててしまった。そして一年が過ぎて──。

前巻の衝撃的なラストからの本巻。これまでとうって変わり、無気力なマヒロが滔々と描かれていて、今までとは違う感触でした。それを一番感じていたのは、やはりルナスで彼女と同じ視点で見てしまうと、本当に辛いのが前半。マヒロを何とか元気づけようとするところや、どうもならないと匙を投げてしまう所など良く分かりますから。

だからこそ、マヒロが中原の抵抗勢力であるリシャールと面と向かって啖呵を切ったときはルナス同様すーっとする思いを感じてしまう。
著者にやられた、と。
同時に、ルナスがどれだけマヒロに惚れ込んでいるかも分かってしまう。もう、逃げられないよ絶対。

その後、リシャールを降伏させるために単騎、バイクで敵の城門を乗り越えるまでのシーンはすかっとする出来。そして、リシャールとわかり合って、ルナスの所で城下の盟を結ばせる所までの下りが胸に来るモノがあって良かった。

本巻からはもうキャラが可愛いとかは越えて、群像劇としてはまっている感じです。元々、その要素はあったのですが敵味方に離散したパリエルやレイナーの主従とマヒロのつかの間の再会や、帝国一番姫、シャルロッテの存在の大きさ。果ては、ミスマルカ車馬隊の隊長まで。吹けば飛ぶ彼がマヒロの事を思ってルナスに喰って掛かる所なんてガチで泣きそうになるし。

風呂敷がどんどん拡がっていますが、これはもう後を付いていくしかないです。
林トモアキ恐るべし、です。