レイヤード・サマー

『あんまり頼りにならないかもしれないけど、しばらくの間よろしくな』

レイヤード・サマー (電撃文庫)

レイヤード・サマー (電撃文庫)


自宅前に倒れていた見知らぬ少女。意識を取り戻した時、彼女は知らないはずの自分の名を呼んだ。未来から来たという、信じがたいことを口にする彼女はさらに驚くことを告げた「貴方は殺される」と──。

切ない悲恋の話でした。プロローグにある庵璃の呟き。読み始めた時は、謎かけでしかないのですが読後にもう一度読むと、涙がこぼれる。
タイムリープものなのですが、主人公の涼平と別れて未来に戻った庵璃のおそらくは、今際の思いだったと想像するともうだめ。ほら、思い出し泣きしそうになります。

根底にあるテーマは人が持つ後悔の念だと思うのですが、それぞれがどう向き合っていくか。また、その後悔を持たせてしまった自分はどうすれば良いのか、というのも物語を上手く推し進めていたな、と感じます。

本作に出てくる三人の少女がどの娘も、良く描けていてそれぞれに感情移入してしまうのですがやはり、メインヒロインは未来へ帰る銀髪の庵璃だと感じてしまう。「子宮食い(エッグイーター)」という殺人者を過去に放ってしまったという後悔から無理を押して時間跳躍を繰り返し、命を縮めた庵璃。
その娘の胸によぎる、自分にあり得た未来を儚く想像する所は全てをさらっていったかな。

本来。自分が一番好きなタイプのキャラは、野々子さん。「幼なじみ」「一途」「ですます口調」「捨て身」とこれだけ好きな要素が入っているのですから。読んでいて、幼なじみの野々子さん最高! と膝枕の所までは思っていたのですけどね……。
良い娘です、ほんとに。無謀なことをしようとする主人公に本気で全てを捧げるって言い切っちゃうのだもの。

また、今回の事件を引き起こす切っ掛けとなったハル。殺人鬼として登場しましたが、その動機も彼女の生い立ちと未来の救いのない境遇を考えるとたとえようがないほどもの悲しくなってしまう。本来なら明るいおてんばで可愛い娘に育ったのかもしれないのに。
本当にハルは掛け違ったボタンとも言える象徴だったかもしれない。
未来に戻った彼女は、庵璃の死を迎えたときにどう思うのか。読んでいれば、なんとなく想像も付くような。多分、人の死というのがどれほど悲しいことかを知るのでしょうね……。

全てが終わった後のエピローグ後をあれこれ想像する楽しさもある、良い余韻を感じます。

夏になったらまた読み返してみたい、そんな物語でした。