花咲けるエリアルフォース

「生き残った桜が、たくさんあってよかった。陛下にも、神楽ちゃんにも、逢えた。ゆんゆんにもね。よかったよかった」

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

花咲けるエリアルフォース (ガガガ文庫)

箱根を挟んで、東西に別れた日本。東側の皇国側にいた仁川は、西側の民国軍の奇襲で被災したその日、両親と桜──ソメイヨシノが地球から消えていくのを目の当たりにした。ソメイヨシノが消えていく悲鳴を耳朶に染みつけながら。そして、二年が過ぎ彼の元に一人の美少女が、訪れて──。

圧倒された話でした。とても悲惨で、切なくて。それなのに、救いの部分が輝いていて。テーマであるソメイヨシノの桜が散る時のような、哀惜のある読後です。
一つの株から接ぎ木で別れた、孤独なソメイヨシノの話を根底にそのソメイヨシノの桜に囚われた悲劇で、ある意味救いがあるというのが綺麗すぎでした。哀しいくらいに。

中二の主人公が、臨時徴兵される世界。それだけで、もう半ば救いが無いと解る。その時に邂逅した、少女の桜子との記憶が通じ合う、出会いのプロローグは良く出来ていたかと。
本作、「桜」をモティーフに描いているのですが、ある意味日本人の歴史や死生観を仮託した意味での桜。
故に、もの悲しい。

解りやすいテーマだけに、読み始めて解るのですよ。ああ、これは「イタイ」話だな、と。でもね。予想を超えて出してくるから、凄い。というか、リミッターが切れた杉井先生は鬼です。容赦がないという意味で。
死ぬならまだしも、敵に回ってしまう仲間が出るとは……。しかも、人間だから理解できるがゆえの悲劇として。

戦争が舞台の作品でしたが、個人的には家族の愛というのが隠れたテーマに感じて仕方がありませんでした。だからこそ、はまってしまったのですが。桜子と主人公。佳織の父への思慕が。

主人公を迎えに来た少女、桜子。名字がない、つまり皇国のやんごとなきラストクイーン。14歳なのに、その立場故に国を背負い、人の死を抱え込む姿が痛々しかった。
そんな彼女に、世間ずれしていた主人公は彼女を至尊の人と気づかず、名字が検索できないのをバグだと思い、「桜子」と名前で呼ぶ。
父兄妹、縁者の全てを失った天涯孤独の彼女にとってこの鈍感さが、主人公との運命的な出会いだったのでしょうね。他人は、陛下というのに、呼び捨てで桜子。彼女が、主人公に感じた気持ちは失われた肉親を思い出すような、身近さだったのかと。
天子として、尊ばれても同じ立場で接してくれる人が居ない孤独の中で会えた、対等に接してくれる存在。
どれだけの救いになるかと思えば、桜子が主人公に心を傾け、疑似的肉親の立場から、恋する人へと変わるのも頷けます(若いからね!)
そんな二人が心を結び合っていく流れは良かったなぁ。読み手としての救いとしても。それが、悲惨な結末であっても良い読後の余韻に繋がっていますから。

メインストーリーが、唯一の皇統としての重責(人の命を背負うという意味で)に本人すら気づかない桜子の話であるなら、サブストーリーは先輩の佳織。
佳織の顛末については、哀しいの一言に尽きたかと。父親への肉親の愛情による想いにすがって、桜花のパイロットとして皇国の防衛を担い、敵国にさらわれた父の存命を知って亡命したら……。
彼女の死に救いが無かったけれど、桜花隊の想いに包まれて「靖國」に戻ってきたラストは。優しいけれど、苦しかった。孤独な空間に閉じ込められなかったとはいえ、それでしか救われなかったかと思うと。
戦争というより、肉親の情を優先した佳織の心を誰が責められるというか。父親が狂ったのか、あるいは拉致されて精神を弄られたのか。佳織の話については本当に、キツイ。

学校の良い理解者であった先生が、実はというのも半端無かったかな。読んでいて、作者は鬼かと思った位。けれど、それだけの事はあったかと。

日本が日本である以上、今後兵器名として使われることがない永久に封印された「桜花」を使って、ガチで物語った本作は本当に凄かったと思います。
それと、イラストが「るろお」さん。本作に合っていたなぁと読み終えて思いました。桜をモティーフに儚い感じが良く合っていたと思います。今となっては、このイラストでないエリアルフォースは想像できません。

P。S。 ロリコン近衛師団を描写して違和感なく、笑わせてくれるバランス感覚も素晴らしいかと。
エピローグの桜子が逝ってしまった佳織にヤキモチを妬くところもラノベとして上手いと密かに唸った次第です。
杉井先生恐るべし。