鉄道少女漫画

「つ、次は。勝ってしますから……」

鉄道少女漫画

鉄道少女漫画

小田急線を軸に路線を使う人々の恋愛模様が描かれる7つの短編集。

すっごく、良かった。話題になっているので、手に取ってみたのですがなるほど。納得。
読んでいてじんわりと胸が暖かくなるような話ばかりでした。
あるはずがないけど、実際にありそうな物語。小田急に乗って、駅名を見かけたら彼ら、彼女らが本当にいそうな気がしてしまうような錯覚をもたせる力を持っている。それほどに惹きつけられます。

以下、各短編の感想。

『浪漫避行にのっとって』
人物の組み合わせが面白い。スリの女子高生の視点で、愛し合っているのにすれ違って離婚の危機に陥った夫婦がモト鞘に戻るまでの流れがコミカルで楽しめる。奥さんに弟を寝取られたと思い込む兄が情けなくて、可愛い。

『彼の住むイリューダ』
どこか外国の街のような発音になまってしまう、入生田駅で語られる高校生の甘酸っぱくて、ちょっとほろ苦い4人の男女の恋物語。親友同士の女の子の心の葛藤が上手く描かれていたと思う。ドロドロしないレベルで、綺麗に纏めているので個人的には好き。あと、男の子新田君がかっこわるくて、格好良いかった。頑張れ。

『立体交差の駅』
社会人の百合カップルの破局と、女子高で後輩に告られて戸惑っている野球少女の恋愛モノ。本来交わらない、それぞれの側の二人が出会うシーンが印象的。タイトルに複数の意味が込められているので、何度も読んでしまう感じ。
背の高い野球少女がとても魅力的というか、自分の好きなキャラのど真ん中でストライクゾーン過ぎでした。

『青と白のリーム』
立体交差の駅の後日譚。野球少女の真っ直ぐさと、不器用さがとても表現されていて好き。短編というより掌編というべき短いページ数だけど、故にきらりと輝かんじ。
最後の台詞、何気にこの娘は負けず嫌いなのね。流石、エース。
一番好きな話です。ムダが無くて、さっくりと伝わるのって心地よいのです。

『木曜日のサバラン』
ケーキ屋と鉄道模型。おっさん連中と女子高生。これが一つに組み合うシチュエーションだけですごい。そして、ケーキ屋に鉄道模型がある理由、女子高生がそこに通う理由。それが分かった時、しんみりとしてしまいます。
鉄道模型は男の浪漫。そんな中、女子高生が唇をリップするシーンの男達のさりげない心情描写がヤケに印象に残っています。

『夜を重ねる』
男の煮え切らない態度に浮気と思って飛び出してきた女と男に別れを告げられた女の、片瀬江ノ島駅での一夜の出来事。何の接点もなく、似た境遇でつい話合ってしまうが。なぜ、この駅を選んだのか。ラストを読むと解る仕掛けが憎い。切ないけれど、優しい気持ちになれる読後でした。

『ある休日』
それぞれの短編のメインキャラが出てくる話。これは、舞台が小田急線というのを上手く使った掌編。キャラ達が小田急線で生活しているんだ、と解らせる。ホンの一コマ背景に出てくるだけで、彼等のその後がいろいろ想像できるのは、キャラが本当に立っているという証拠なんでしょうね。
オチが大変宜しかったです。

実は初めて中村さんの作品を読んだのですが、好きなタイプの作りだなぁと思って、どこら辺がだろうと考えていたのですが。
中村さんのネームは動きのあるシーンは描き文字でパースを付けたりして躍動感があるし、決めるシーンの魅せゴマもまた印象的で上手よねぇ。コミカルなシーンのキャラの崩し方もとても好きなタイプ。
それで話の内容が自分好みですから……。

他の作品も読もうと心に決めるのでした。