円環少女 13 荒れ野の楽園

「大スキ」

円環少女 (13) 荒れ野の楽園 (角川スニーカー文庫)

円環少女 (13) 荒れ野の楽園 (角川スニーカー文庫)

舞花が再演魔術師となり、地獄と呼ばれた地球が再演大系の「魔法世界」となった。仁やメイゼルたちは地獄の釜が開いたように、魔法世界からの襲撃を躱しつつ、最後の決戦を進める。そう、仁の実の妹、「再演魔術師」武原舞花との死闘へと──。

クライマックスにふさわしい、熱量のあるストーリーとキャラ達の想いに満ちた最終刊でした。読み終えて思うのは円環少女、すなわちメイゼルの物語だったのだな、と思います。小学生の彼女が恋した、仁への揺るぎない愛の物語だったかと。
再演大系という、未来から人の運命を操る魔術。それにあらがい、初恋を実らせたメイゼルという視点から見ると、全くブレが無かったと思います。
(仁を主人公とみるとふらふら〜、な感が……)
なので、仁と別れた後の号泣と「本」の最後のページをめくった後の成長したメイゼルと仁との再会が胸に来ます。
仁と逢うために、語られては居ないけど、おそらくその後の魔法世界をしっちゃかめっちゃかにしてでもこじ開けたページ。これまで綴られたメイゼルの性格を慮れば、何でもありだろうと。
愛した男の為の女の一念で片付いて、納得出来るだけの個性の強さを纏っていたメイゼルらしい解決でした。
もう、二人とも幸せになれよ、と本当に思うくらいに。

円環少女シリーズで好きな所はいろいろあるけれど、要素の一つとしては、多数の登場人物が織りなす群像劇の醍醐味も味わえたことだと思っています。
仁とメイゼルから見ての敵、味方。それぞれがお互いの意思を持って行動する姿が印象に残っています。
名前を持って、登場したキャラに無駄な描写は無かったと思います。それぞれが生きていた。刻印魔導師として、あるいは人類世界を護るために戦って。または、誇り高き魔法使いとして力をふるって。
だから、終盤で26人のきずなが演じた「奇蹟」は目が潤んで仕方ありません。本編で倒れた人物が、それぞれの歴史を歩んだきずなと結んだ絆で召喚された、「死者」達との再会に重みがあったと思う。ニガッタまでちゃんと出した所が嬉しかったなぁ。
エレオノールもしっかり活躍していたし、その意味でも満足だったかな。

その上での、最後の戦い。とても、残酷だった。兄妹の結末は救いがなかった。幸せになりたい、という想いは間違っていないのに。
後味は良くないはずなのに、それでも救いがあった。
小さな。仁とメイゼルの幸せという小さな願いの成就に、これだけの犠牲があったと。
そんな恋物語を成就させるという当たり前の事のために再演大系を消去して世界を壊す壮大でとても卑近な話。

だけど、それがとても心地よかった。シリーズ読み続けた後の最終巻として文句なかったと感じてます。

以下、妄想。
カーテンコールのあと。
きっと、間抜けな仁は唇を話した後、再会したメイゼルにこういうんだろうな。
「大きくなったな」と、間抜けな感想を呟いてメイゼルに怒られて、そして抱き合って。
円環ではなく、繋がった螺旋として二人の紡ぐ歴史がそこにあるのだと思わせるような。そして二人の子供達は、円環大系の様に閉じたものではない、相似的ものを残しつつ、未来の台へつづく螺旋大系として新しい歴史を進めていくのだろうな、と思える読後の余韻がとても心地良く感じます。
だから凄惨で失ったモノは多かったけれど、それでもオレとしてはハッピーエンドでした。

p.s. 最終刊は本当に良い台詞が多かったと思う。特に、虎坂井レイの台詞の多くに琴線を弾かれた感が。でも、メイゼルの想いが一番強く感じたので、冒頭にはメイゼルの気持ちを引用してしまいました。

p。s2. 天盟大系まで出張ってきて、コメディな部分の描写もあるのに違和感なく進むのは凄いです……。変態もきちんと活躍するし! そういうの、大好きです。